兵庫県中小企業・地域経済振興基本条例(案)の提案の趣意
1.はじめに
全国有数の工業県であり多様な県土を持つ兵庫県において、中小企業(小規模企業および中小自営業者を含みます。以下、同じ)の果たす役割は大きなものがありますが、この中小企業の多くが、近年ますます不況をきわめ、それが地域経済の疲弊をもたらしています。とりわけ阪神・淡路大震災の被災中小企業と地域経済は、より深刻な事態にあります。 中小企業と地域経済のこのような状況を打開し、その振興を図ることはまったなしの全県民的な課題です。 こうした見地から、日本共産党県会議員団は「兵庫県中小企業・地域経済振興基本条例」を提案するものです。 中小企業基本法第6条は、「地方公共団体は、基本理念にのつとり、中小企業に関し、国との適切な役割分担を踏まえて、その地方公共団体の区域の自然的経済的社会的諸条件に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する」と定めています。 この第6条は、旧法第4条で国の施策に準じた施策を実行するとされていたものを、「近年の地方分権の考え方に沿い、国と対等な政策主体」として「その区域を管轄する地方公共団体が第一義的に実施」(中小企業庁編「新中小企業基本法」)することとして、中小企業施策における、県と市・町の役割の重要性を定めたものです。 しかし、兵庫県の中小企業施策の現状は、この法改定の主旨を十分に生かしたものになっていません。たとえば、県単独の事業はわずかばかりで、また、予算や人員など十分ではない市町の中小企業施策にたいする支援策にも見るべきものはありません。 条例案は、中小企業基本法第6条に基づき、中小企業の振興を県の最重要課題の一つとして位置づけ、それにふさわしい施策を積極的に推進するためのものです。 この条例の特徴は、(1)県の責務を明確にするとともに、必要な財政措置を講じる。(2)中小企業と身近に接している市町との連携を深め支援を強める。(3)中小企業の自主的努力を重視し尊重するとともに、その意見・要望を取り入れるための「中小企業・地域経済振興協議会」を設置する。(4)大企業の社会的責任を強く求めていることです。 なお、この条例案は中小企業の位置づけ及び県の責務等を定める総合的な中小企業・地域経済の振興を図る「基本条例」であり、これに基づいて分野別、業種別、地域別の、より具体的な個別施策の強化が求められています。
2. 中小企業の役割と現状
中小企業は、兵庫県下でも、生産の51.4%、販売額の80.8%を担い、生産・流通にわたって文字どおり経済の主役の地位にあり、また雇用の80.1%を支えています。 しかも、中小企業が地域に根ざした存在であり、地域内経済の循環を支え、住民本位のまちづくりや地域文化の担い手として住民生活に不可欠の役割を果たしています。 大企業や国際競争に負けない自立した中小企業が一部には見られますが、多くの中小企業は業種を問わず深刻な苦境に陥っています。その原因は消費購買力の冷え込みによる長期不況とともに、大企業の海外進出などによる「産業の空洞化」、逆輸入による「価格破壊」、外資系大企業の国内市場進出などの「経済構造の変化」にあります。2002年の「中小企業白書」は「中長期的には経済成長の源泉ともいえる技術力等を低下させわが国産業の競争力を損なうのではないか」と「空洞化」への「懸念」を表明しています。 2001年度の企業倒産件数は、全国で約1万6000件と戦後3番目の高水準となり、約22万4000人の雇用が失われ、兵庫県でも813件の倒産で6961人の雇用が失われています。(東京商工リサーチ神戸支店調べ) また県下の事業所数と従業員数の減少が顕著です。1991年の27万9371事業所から2001年には25万2132へ9.7%も、従業者数も236万4593人から232万9868人に減少しています。特に小規模製造業は、1991年の約1万8000事業所から約1万3000へ25%も、出荷額も8兆6000億円から7兆2000億円へ16%も減少しています。 また、県下の地場産業の衰退も深刻です。1989年から8年間で、企業数約6800から5000に約27%、従業者数では約6万8000から約5万3000人と22%、生産額も約1兆4000億円から約1兆2000億円と15%、いずれも減少しています。一部の地場産業では「崩壊」に近い危機的な状況です。 地域の顔ともいえる商店の衰退も著しいものがあります。県下の第一種・第二種大規模小売店舗は1991年比で売場面積が111万745平方メートルから1.5倍の248万3766平方メートルに増え、売り上げも2500億円伸びている反面、一方で従業員5人以下の商店は約1万4000店が消失し、販売額は3200億円減少、身近な商店が次々なくなり、そこの地域のコミュニティーが失われる原因にもなっています。 さらに、金融機関の「貸し渋り」や「貸しはがし」による資金繰り難や、多重債務問題、また、中小商工業者の劣悪な社会保障制度の問題、中小商工業者の家族従事員や、女性事業主としての「業者婦人」の問題も深刻です。 その上、多くのところで後継者がいないことも重大です。 このような事態がすすめば、中小企業だけでなく日本の経済と雇用、地域社会に重大な危機をもたらすことは明らかです。 消費購買力を引き上げる施策とともに、「構造変化」に対応した中小企業施策が必要となっています。これは当面の困難を打開するという意義にとどまらず、中小企業の振興によって地域の発展、深刻な雇用問題の解決、日本経済と国民生活の真の豊かさを築くうえでも重要なことと考えます。 これまでの大量生産、大量消費を特徴とする大企業中心の日本の経済システムを転換し、個性的で文化的かつ地域性をもった経済・産業システムを築くことが求められます。その担い手になるのは、これまで日本のモノづくりを支え、世界的に優れた高い技術力を持つ中小企業の大きな力量を生かしてこそ豊かな明日があると確信するものです。 私たちは、このような見地から国にたいして中小企業政策の抜本的転換を求めると共に、県として必要な施策をおこなうよう強く求めるものです。
3. 中小企業政策のあり方と施策の現状
(1)中小企業政策の基本 1.日本経済の主役として位置づけ、予算を大幅に引き上げて必要な財政措置を講じる。 2.中小企業の実態を把握し、実情に即した経営指導、情報提供、人材育成、技術・商品開発、販路開拓など経営向上のための具体的な支援を抜本的に強化する。 3.行政の責任として中小企業向け官公需発注を高めるとともに、教育・医療・福祉分野などの事業を拡充することによって、中小企業の仕事を増やす。 4.中小企業の資金需要に円滑に対応するための公的金融の改善と拡充をはかる。 5.中小企業の経営の安定に資する民主的な税制を確立する。 以上が、政策の基本であると考えます。
以下は、条例制定のもとで、実施されるべき施策の大要を申し上げます。 (2)県の中小企業の位置づけと財政措置 県の商工費予算、約2688億円のうちのほとんどは制度融資のための預託金です。これは重要な意義をもっていますが、実質の予算支出を伴うものではありません。したがって、それらを除いた実質の中小企業「支援」のための予算は93億円と一般会計予算の0.4%しかなく、そのほとんどが国の施策に沿ったもので県の独自施策がきわめて少ないのが現状です。このような状態を改めるために予算の大幅な増額が必要です。 それに中小企業支援には実態の把握が欠かせませんが、県は、自ら、そのための調査をしていません。市町の協力も得ながら全ての中小企業・事業所の悉皆調査が必要です。 また、中小企業への技術支援が必要にもかかわらず、県は「行財政構造改革」の一環として、工業技術センターの技術研究員9人を削減し、予算も1億4889万円削減していますが、今こそ抜本的に体制を強化すべきです。 (3)業種ごとの実態に見合った支援策 <製造業> 県下でも優秀な人材、技術力、経営ノウハウなどによって、大企業に負けない国際競争力をつけている中小企業もあり、このように下請企業が自立できるように中小企業への成長を支援するために、独創的な商品の開発、販路の開拓や拡大のため、異業種の連携を含めた企業間の共同化やネットワークづくり、情報の収集・発信能力の向上、及び経営革新のための支援が求められています。 また、下請け取引の適正化をはかるため下請関係法の改正も必要ですが、県として、大企業による発注打ち切り・単価切り下げ等下請いじめを厳しく規制する有効な措置をとることも重要です。 <地場産業や伝統産業> 県として、それぞれの地場産業・伝統産業毎に、低価格の海外製品に対抗できる高付加価値化への技術指導や、経営指導及び後継者を含めてきめ細かな支援策を講ずることが求められます。また、支援にあたる県の職員配置が必要です。 <建設業> 中小企業基本法が建設業を施策の対象として明記しているにもかかわらず、県の中小企業対策の部署では建設業を対象外にしています。事業者数も多く、深刻な不況にある中小建設業者への支援と体制の確立は急務です。 大企業や大手ゼネコンしか請け負えない大規模開発中心から福祉や生活密着型の公共 事業に転換するとともに可能な限り分離・分割発注をすること、明石市が実施している「産業活性化緊急支援事業」のような住宅リフォーム修繕への補助制度を県も創設するなど、中小建設業者の仕事を増やすことが求められています。 建設業法の厳格な実施によって大手元請企業による下請いじめを止めさせるとともに、重層的下請構造になっている実態に即し、少なくとも県発注の工事について、下請企業への工事代金の未払や連鎖倒産が生じないよう「公共工事入札・契約適正化促進法」の厳格な適用をおこなう必要があります。 また、建設職人の最低工賃制度を確立することも重要です。 <中小小売業> 市場・商店街が地域に果たす役割を重視して、大型店の出店を規制するための必要な法律の制定を国に求めると同時に、現行の大規模小売店舗立地法を活用して、環境・交通・教育・非行問題などとあわせて、「商店がなくなれば、まちそのものが失われる」という観点からの出店規制をおこなうことが必要です。 市場・商店街の振興のためアーケード、カラー舗装、イベントなどへの支援にとどまらず、地域住民の要求に根ざした福祉事業や空店舗対策など全国の積極的な経験も取り入れた活性化への支援や後継者育成などが求められています。 また、中心市街地だけでなく、既存の近隣型の中小小売店、市場・商店街への支援の強化も必要です。 <観光業> 大型イベントに偏重するのではなく、地域の自然を基礎とする観光資源の開拓への支援と、地元中小観光業の育成を図ることが重要です。 その他の業種についても、その業種の特徴に見合った支援策が必要であることは言うまでもありません。 (4)金融支援について 中小企業の資金需要に応じた、円滑な資金の供給を保障するため、具体的には、銀行による「貸し渋り」や「貸し剥がし」を規制するとともに、地域への一定の融資を義務づけ、地域への貢献度の評価と情報公開を内容とする「地域再投資法」を制定すること、政府系金融機関の中小企業融資を拡充し、金融庁の検査による信金・信組つぶしをやめさせて、地域金融機関の育成を図ること、さらに融資審査にあたっては人的担保をなくすとともに「物的担保主義」に偏ることなく、経営力や技術力なども総合評価する制度などを国にたいし強く求めることが必要です。 県の制度融資については、取引先の企業倒産に対応できる融資など、実態に見合った見直しをおこなうとともに、既にいくつかの市町で実施している信用保証協会の保証料の公費負担や利子補給、返済期間の据置や借換融資の制度化などを実施すべきです。 また多重債務者が急増していますが、これにたいする必要な公的融資制度を整備し、高利・ヤミ金融を宣伝・広告面などを含めて厳しく規制し取り締まることが重要です。 (5)民主的税制の確立 中小企業の経営安定のため、民主的な税制を確立することも大きな課題です。 法人税の累進課税を強め、最低税率を引下げること、所得税に自営業者本人や家族の労働に見合った勤労控除を導入すること、事業承継における相続税の軽減などが求められています。 また強権的な税務行政から中小企業を守るために「納税者憲章」を制定することも重要です。 県は、第2の消費税となり赤字の中小企業にも課税することを目的とした法人事業税の外形標準課税の導入をめざしていますが、きっぱりとやめるべきです。
4. 条例案の内容について
この条例案は、前文で中小企業の政策が県下経済と県民生活に関わる県政の重要課題であることをうたい、第1条でこの条例の目的を定めています。 第2条でこの条例による施策の対象を定めていますが、ここで建設業もこの対象に含まれていることは明らかです。 第3条では中小企業政策の基本方針を定めるとともに、第4条でこの基本方針にもとづく施策の大綱を具体的に定め、第5条でこの施策を推進するにあたっての県の責務を定め、特に知事の責任において「必要な財政措置を講ずる」ことを明記しています。 中小企業支援については、市町も大きな役割を担っています。第6条はこの立場から市町が取り組む振興策に対して県が積極的に支援することを定めています。 また、中小企業の振興は中小企業者自らの努力が前提であり、このことを第7条で定め、同時に中小企業の事業に関連ある人々の協力が必要であることを、第8条に定めました。くわえて大企業の果たす役割が重要ですが、その社会的責任を明確にするために第9条の「大企業の協力」を規定しました。
最後に中小企業者と県民の意見・要望をくむとともに施策の実施を確実にするために「県民参加」の立場に立った「中小企業・地域経済振興協議会」を設置することとし、これを第10条に定めています。
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