西区大学院生殺害事件―暴力団に甘い警察の体質ただし県民の生命守れ
■質問■宮田委員
去る3月4日神戸西区で起こった大学院生殺害事件について質問します。犠牲となられた浦中さんに心から御冥福をお祈り申し上げますとともに、御遺族の方に心からお悔やみを申し上げます。
神戸西区の県営住宅の団地で、住民の目の前で、またもや一般の住民が暴力団員らの暴行を加えられ、殺害されるという事件が起こり、これだけでも本当に痛ましい事件です。
そこに110番通報で駆けつけた警察官がいながら、命を守ることができなかった。今、県民の間では、暴力団員らにたいする怒りとともに、警察の捜査の甘さにたいするやりきれない気持ちが頂点に達している。暴力団の犯罪から、県民の命と財産を守り、県民の信頼を回復するためには、この事件の全容と警察の捜査上の問題点も、全面的に明らかにし教訓にしていくことが不可欠だと思います。この立場から、以下、いくつかの事実関係も踏まえて質問します。
まず第1に、暴力団員が絡んだ事件だということは、警察はどの時点で確認されたか、その点答弁を願います。
▼答弁▼百元地域部長
加害者の1人が暴力団員と確認できたのは、現場から本署にたいする照会があってからで、4時7分と承知しています。
■質問■宮田委員
先ほどの答弁の中で、緊急配備をする時の基準が述べられました。その中で組織的集団的暴力事件についても、この緊急配備の対象だということが話にありました。今回の事件の場合、最初に浦中さん本人から110番通報で3分ぐらいの訴えがあったということ、あるいは5件110番通報があったというが、その中でも暴力団風という内容もあったと言われます。それからいくつか、暴力団ということが確認というか判断できる状況があったと思う。最初から、そういうことでは今回は配備されなかったのか、その点お答えいただきたい。
▼答弁▼百元部長
緊急配備対象事件に発展する恐れがある事案として判断できるものだと思います。ただ、そのような状況の報告を受けた地域課長なり当局責任者なりの事の軽重にたいする判断の甘さから、拉致あるいは拉致事件等にたいする重大犯罪への移行に半信半疑になり、緊急配備にちゅうちょした、そのように承知しています。
■質問■宮田委員
「事の軽重の判断から」という話ですが。もう1つ、聞きたい。
これは現場からの報告を受け、通信指令部は判断されると思うが、(配備の)解除の時も、県警本部の通信指令室が指示されるのかどうか。今度は緊急配備ということではなく通常の場合の配備かもわかりませんが、いくつか応援部隊が行ってますね。これがもう治まったということで帰ったということが報道されているが、そういう場合の最終的な本部の判断というのはどうだったのか、もう1度お願いします。
▼答弁▼百元部長
事実関係に異なる部分があるので報告します。現場に行ったパトカーの警察官、交番の警察官、これが被害者から事情聴取して「浦中さんは車に乗せられたんやろか、家に帰ったんやろか、逃げたんやろか」こういうあやふやな話を聞きながら、報告では「1名は現場から立ち去り」という内容のことをやってしまった。通信指令室あるいは本署はそれを聞いているわけです。その内容から、その時点では緊急配備ということにはならなかったということです。
それから、5時30分ごろに現場から病院に搬送された被害者から、やはり治療終了後の事情聴取をやっています。その治療終了後の事情聴取で、今度はかなり具体的に「浦中さんを乗せた車はセダンタイプのシルバーだ」と指摘があった。その情報を受けたものは当然、本署等に報告を上げている。報告を受けた地域課長あるいは宿直責任者において、被害者の言ったことが現場で言ったことと食い違っているということが1つ。それから当時、そのトラブルの最中には、その被害者も車に乗せられようとするなどの非常に緊迫した状態があって、他を振り返るような余裕がなかったように思われること。もう1つは、最初の110番通報が浦中さんの携帯から入っており、携帯電話で110番通報するような余裕があったと思われる。そういうようなことから拉致事件等に発展するというような重大事件に発展する恐れは薄いと申しますか、その事の軽重の判断を誤ったという、そういう甘さがあり、緊急配備にならなかった。こういうことです。
■質問■宮田委員
現場の状況から見て、もう1人は立ち去ったという状況を受けてということですが、やはり結果的に、その時点で全面的に状況を把握をして判断すべきではなかったかということを感じます。
つぎに、現場でのことについて質問します。最初にパトカーが到着したときには、大学院生の知人は組員4人に追い回されていたと。そして知人を警察は保護した。そして直後には救急車を呼んで病院に搬送していると報道されています。ということは、救急車で搬送しなければならないほど、その知人は負傷していたと思う。それだけでも重大な傷害事件ではないかと思います。しかも、それは逃げている人とそれを追い掛けている人間と現状をみれば、どちらが被害者でどちらが加害者かは現場で確認できると思う。
そこで、なぜ現行犯逮捕なり、あるいは同行してあるいは現場で徹底して事情聴取がおこなわれなかったのか。当然おこなうべきではなかったかと思いますが、その点についてはどうでしょうか。
▼答弁▼百元部長
現場に臨場した警察官は到着直後に、パトカーに保護した傷害の被害者から実行行為者を特定する証言が得られなかった。そして暴力団風の、後からは暴力団と分っていますけれども、相手方の4人の内の1人が交番に出頭して事情を説明すると申し立てたことから、当人から事情聴取をすれば事案の全容が解明できると判断して、関係者の現場離脱を認めたと承知しています。その後、出頭してきた組員から事情聴取をして、その男も自分がやった、1人でやったという供述をしました。しかし、被害者からは眼鏡を無くして殴った相手がわからないという申し立てがあった後に、その当時、病院に搬送して治療中でしたので、犯人の特定ができませんでした。また犯行を自供した組員について、実は手のこぶしですとか、殴ったらいろいろと痕跡の出るところを確認をしています。残念ながらこぶしに腫れなどもなく、犯行を裏付ける資料にとぼしかった。
もう1点は現場の状況から、複数犯の可能性が非常に強い。したがって1人でやった云々と言うことは、実行犯をかばって自分が罪をかぶっている。いわゆる暴力団特有のものですが、罪をかぶっている恐れが強い。そういうことなどから、その暴力団員の被疑者調書を作成して被害者の面割り用の写真、被害者にたいする面割り用の写真撮影をおこなった後、事後捜査をするということで帰宅させたわけです。もちろんその後、報告を受けた神戸西警察署の刑事課員が、その日午後に再度出頭させて取り調べた上、傷害事件の被疑者として通常逮捕をしています。また現場で臨場した警察官がパトカーに保護した被害者から事情聴取した範囲には、「眼鏡がないので殴られた相手は分からない」とか「浦中さんは現在どこにいるのか分からない、その辺にいなければ車に乗せられたんやろうか、逃げたんやろうか、あるいは家に帰ったんやろうか」そういう申し立てがあって、浦中さんの所在があやふやであった。こういう時に警察官は考えないかんわけですが、そのあやふやな言葉から既にどこかへ逃げられたと判断をした。
また病院で浦中さんがセダンタイプのシルバーの車に乗せられたという新たな情報を得た後にも、現場での申し立てと異なる、本人も自動車に連れ込まれようとしていて浦中さんに注意を向ける余裕があったとは思いがたい、浦中さん自ら110番するなど、ある程度余裕があった。そういうことなどから、拉致など重大事件への発展性に半信半疑になった。そういう判断の甘さから現場周辺における組織的な対応をしなかった。このように承知しています。
■質問■宮田委員
実行犯の特定ができなかったということについてですが、救急車で搬送される大きな怪我をしているわけです。これは重大な傷害事件だ。加害者は、後ろから4人が追っていっているわけでしょう。その4人は、誰が直接殴ったかは別にして、集団で暴行を加えようとしていた。そのことは事実ですから、私は4人とも当然加害者として事情聴取すべきだと、そのうち誰が殴ったかということは確認できなくも、4人全員を(事情聴取を)やるべきだったと思う。まず初動捜査の問題点の1つだったと指摘をしておきたい。
つぎに、同行を求めたのにたいし、強制ではないだろうとか口論になったとか報道をされているが、強制という点で言うと、明らかに現場で殴られて現認できるわけで、相手が「強制ではないだろう」というので帰したことについても理解できないんですが、この点はどうでしょうか。
▼答弁▼百元部長
おっしゃる通りもっと粘るべきだったと思います。やったのは、いわゆる職務質問で、職務質問の対象というのは大半が善良な市民です。「現行犯的な」ということもあったが、現行犯としての確認はできていない。ただ職務質問として4人にたいして職務質問を続け、任意同行を求め事案の解明にあたるという必要はあったと感じています。
■質問■宮田委員
その点は、警察官職務執行法の第2条から見てもそうすべきだった。非常に大きなミスだったと思います。
つぎに、組員が4時20分ごろ有瀬交番に出頭した。その時も知人への暴行を認めているが、5時30分には帰らせている。そこで、誤認捜査になると判断して帰したという報道があったが、これは、本人が浦中さんの知人に暴行を加えたことはその場でも認めているし現場でもその状況判断できるわけですから、この誤認逮捕になるというのが理解できないが、どうですか。
▼答弁▼百元部長
誤認逮捕を恐れてというのは、複数犯の犯行であることがほぼ明らかである。それを自分でかぶっている。ということは、暴力団の場合などは、親分、兄貴分、そういうものの罪を1人で背負って身替わりということがある。そういうことを考えたと承知しています。
■質問■宮田委員
身替わりと言うが、この人物はその場に居合わせた加害者の1人だということは確認できると思う。そこからでも対応して、そして事情聴取するなり捜査をすれば、もっと早い段階でいろんなことが分かって、浦中さんも救えたんじゃないかと思う。この立場からお聞きしたんですが、誤認逮捕とか身替わりだとかいうものは通らないと思います。
つぎに、浦中さんの拉致の問題ですが、110番通報の中でも「拉致されようとしている」とかあるいは知人も「浦中さんが車で連れ去られたかもしれない」という心配をしていると。そして2人が追い回されたり怪我をしている。そういう状況からも1人は大怪我しているわけだから、そして10人前後でやっているわけですから、当然もう1人の身辺の危険性、生命の危険性とか判断できると思う。そこで浦中さんを保護するために、少なくとも現場で身柄を確認するまでは捜査すべきでなかったか。現場の警察官が指令室に立ち去ったと報告をしたということですが、それは確認せずに報告をしているわけです。そこでは最後まで身柄を確認するべきではなかったかと思いますがどうでしょうか。
▼答弁▼百元地域部長
おっしゃる通りです。粘るべきであった。とにかく悪質なものについては住所・氏名を言わない云々というのは日常茶飯事です。大半の警察官はそれを説得し粘って事件検挙につなげている。今回もそういうことは可能であった、私はそのように感じています。
■質問■宮田委員
本当にこういう一つ一つのミスが、犠牲者を出したことにつながる重要な問題だ。
それから、浦中さんの自宅に4時30分ごろ有瀬の交番から電話をして、浦中さんが帰っていないことを確認しているが、その後、具体的にはどういう捜査をされたのか。
▼答弁▼百元地域部長
浦中さんの所在確認は4時30分ごろやっています。浦中さんが車に乗せられた云々という具体的情報が病院から入ったのが5時30分ごろです。現場の責任者等は拉致等重大犯罪への発展性について半信半疑でしたが、地域警察官の一部に、現場周辺あるいは西脇組の組員ということが分っていましたから、西脇組の周辺等を重点とした捜索活動をやらせています。
■質問■宮田委員
いくつかの事実関係と、警察の対応について聞いてきたが、最初の現場での対応あるいは強制的な同行あるいは徹底した事情聴取もやられなかった。それから、2つ目に、出頭した人物に犯行が確認できるにもかかわらず対応しなかった。3つ目には、浦中さんの身柄を確認もせずに立ち去ったと判断をしたり緊急配備もしないと。等々どれを取っても、捜査のミスということと、それから新聞等でも報道されているが、暴力団にたいして非常に甘い、そう言われても仕方のない状況だと思う。
全体を通じて、こうした対応についての問題点をどういうふうに認識しているかお聞きしたい。
▼答弁▼岡田本部長
この件について私ども反省することはいろいろあると思うし、批判はあると思います。できるだけ弁解がましいことを言いたくないというつもりはあります。しかし敢えて言わなければならないという感じもします。大変難しい判断です
たとえば現場で暴れているトラブルがある、警察官が行く。迷いがあると思います。迷いというか判断が必要だと思います。本件の場合、取りうる手段としては、任意同行を求めて交番なり署へ来てもらって詳しく事情を聞く。相手が素直に応じてくれれば、これが一番オーソドックスな方法だと思う。相手が抵抗した場合どうするかというと何とか説得を続けよう。今回のケースでも私はなんとか説得を続けたのだろうと思います。その結果がやや中途半端であるが、1人だけが出てくるという形になってくる。もう少し強い人ですと、私は逮捕するという判断をとった警察官もあるだろうと思います。これはただし逮捕した時に、委員の質問にあったように、4人で追ってきているんだから、もうそれで実行行為者だけが犯罪じゃないだろう。刑法理論で言えば共謀共同成犯だってあるじゃないか、堂々と4人とも現行犯逮捕あるいは緊急逮捕したらいいじゃないかという議論あると思います。私は人によってはそういう選択はあったと思います。ただ後になってみると、その中の数人は実はギャラリーだった。最近はギャラリーみたいな話があります。これは結果論ですので、もちろん私はどちらの判断が100%正しくて、こちらの判断が100%間違っているということを言うつもりはありませんし、状況は微妙に時々刻々と変化をします。その中で私は反省すべきものはあると考えて、そうしたことを反省材料として使って行きたいと思っていますが、それをすべて100%悪いとは言えない。そういういろんな判断の分かれ道に、各警察官がどのように判断するかというと、判断の根拠となるのは、警察全体を背負ってきた歴史的ないきさつ、あるいは法律についての理解、あるいは個々の人の資質、あるいは柔剣道等自分の力にたいする自信の程度、さまざまなものがあります。ですから個別のやつであってすべてが良いとか悪いとかなかなか言えないと思うが、そういうなかで悩みつつ仕事をするのがわれわれの仕事だと思っています。
基本的なところでは警察の責務と言うことで、警察は個人の生命、身体、財産の保護に任ずる大変重い責任を一方で背負っています。他方、2条2項で、警察の活動は厳格に前項の責務の範囲に限られるべきもので「不偏不党、公平中正を旨としいやしくも個人の権利自由の干渉にわたることもないよう」にとこれも大事な理念です。そのバランスの上で考えているわけで、私は今回のことについて弁解しようとは考えていませんが、そういう迷いは常に現場で生じている。その時に少しでも自信を持った仕事ができるように私ども各級幹部は指導していかねばならない。このように思っています。
■質問■宮田委員
現場での迷いというのはそれは当然起こるかもわかりません。しかし今回の場合は、状況から判断して、他の応援部隊も配備をして現地に到着している。当然その応援部隊の応援も受けて、現場にいる全員を対象にした事情聴取を、連行できなければその場で、徹底してやるということが必要だったと思う。今から見てもその点が問題だったということも明らかにしていただきたい。
最後に3年ぐらいで県下で暴力団が関係して一般の県民が被害を受けた、そういう事件はどのぐらいあるか。
▼答弁▼鶴谷刑事部長 平成11年以降ですが、暴力団員による一般人にたいする殺人または殺人未遂事件は県内で2件発生しています。うち1件は、平成13年1月尼崎市内路上で些細なことから口論となり、暴力団員ら3人が男性に殴る蹴る等の暴行を加えた上で包丁で刺殺した事案。もう1件は、平成13年2月、朝来郡山東町で口論となった知人男性を殺害する目的で、暴力団員が男性の腹部を鉄棒様のもので突き刺しなどしたものの殺害の目的を遂げなかった事案ですが、それぞれ被疑者を逮捕しあるいは指名手配しています。
なお、県民が被害者であるかどうかの統計はとっていないが、暴力団員ないし準構成員による平成11年から13年までの殺人、強盗、強姦、傷害事件の検挙人員は、殺人が54人、強盗が48人、強姦が28人、傷害が514人となっています。
■質問■宮田委員
凶悪な犯罪も非常に多いが、514件もの暴力事件等があったということで考えると、本当に県民の安心・安全を守るのは、これは警察しかないわけですから、今までいろんな問題点を明らかにしたが、そういう教訓をぜひ活かして、警察法第2条で「警察は個人の生命、身体および財産の保護に任じ」と定めているが、全力をあげていただくことを要望して質問を終わります。 |