武庫川流域委員会への意見書(5月12日)
(1)穴あきダムの実例の益田川ダム(島根県益田市)調査結果 湛水試験が終わった後の4月末に現地調査。 - (写真2)のように、ダム底部に2箇所穴が開いている穴あきダム。
- (写真2)(写真3)(写真4)などを見れば明らかなように、湛水して水面下にあった崖面と、湛水面より上の湛水の影響のなかった崖面とは明瞭に違う。湛水面より下は完全に草木が枯れている。
- (写真4)(写真5)は、土砂だめ。兵庫県の説明とは違い、土砂だめをやはり作っている。しかも、たった一度の湛水試験で、土砂だめの堰堤の上部にまで土砂が溜まり始めている。
- (写真1)(写真6)のように、穴が詰まるのを防ぐために流木止めらしきものが設置されている。(武庫川ダムでは、上部にも穴ができるので、相当な高さの巨大な流木止めを新たに作ることになるのではないか)
- (写真7)のように、ダム下流には放水による衝撃を抑えるために巨大なコンクリート排水路が設置されている。(武庫川ダムではこれが、高さ27メートル長さ100メートル以上になる)
これを見ても、武庫川ダムができても、渓谷の環境は保たれるかのように言うのはまったくのごまかしであることがわかる。また、土砂が溜まらないと言うのもごまかしであることがわかる。 (2)武庫川ダムができれば、渓谷は、どのような頻度で、どこまで湛水するか 「武庫川ダム堆砂対策検討業務委託報告書(平成4年3月)」の「表2−6−5 武庫川ダムの貯水位、流量ハイドロ」より ダム計画地点のハイキング道の高さ(OP71.0メートル)を目安に検討する。 - 【確率1/2】
- 湛水開始よりの時間 19.5h貯水位71.27メートル
20.5h最高水位 73.19メートル 21.5h貯水位70.47メートル (湛水時間2h以上) - 【確率1/3】
- 18.5h貯水位70.46メートル
20.5h最高水位 79.44メートル 22.5h貯水位70.68メートル (湛水時間3時間以上) - 【確率1/5】
- 18.0h貯水位69.88メートル
21.0h最高水位 85.65メートル 23.5h貯水位70.57メートル (湛水時間5時間以上) - 【確率1/10】
- 17.0h貯水位70.79メートル
20.5h最高水位 94.23メートル 24.5h貯水位71.26メートル (湛水時間8時間以上。30年確率用として上孔閉じればさらに長時間湛水) - 【確率1/20】
- 16.5h貯水位71.38メートル
20.5h最高水位 99.71メートル 26.0h貯水位69.47メートル (湛水時間9時間以上。30年確率用として上孔閉じればさらに長時間湛水) - 【確率1/30】
- 15.5h貯水位69.87メートル
20.5h最高水位 101.45メートル 26.5h貯水位69.55メートル (湛水時間10時間以上。30年確率用として上孔閉じればさらに長時間湛水)
この検討の結果いえることは、ダムができれば、毎年、ハイキング道程度の高さまでは浸水するということ。すなわち、大雨が降れば、ハイキング道が湛水する危険があり、今までのようにハイキング道を安全に通行することができず、きわめて危険となる。県の説明のように、ダムができても渓谷をハイキングできるように保障するというのであれば、新たに、今より30〜40メートル以上高い位置にハイキング道を造成しなければならなくなる。渓谷の全域にハイキング道新設造成工事という馬鹿げた渓谷破壊工事をすることになる。 ダムを作れば、渓谷保全どころか、現行のハイキング道を市民が利用することすらできない。ダムとは両立しないことは明白である。 (3)ダムの下流では ダムより下流部分でも、県の計画では100メートル以上にわたって、幅50メートル、高さ27メートル(ハイキング道は川底から高さ10メートルほどの位置)のコンクリートの巨大水路を作ることになり、ハイキング道はここでも、この工事により全面撤去となる。また、この工事のためにダムより下流の渓谷の両斜面は、高さ数十メートル以上、延長100メートル以上にわたって掘削され、渓谷はまったく原形をとどめなくなる。ダムの下流の渓谷も完全に破壊される。 ダムができれば、渓谷は上流も下流も完全に破壊される。これでどうして、渓谷を守るといえるのか。渓谷破壊や環境破壊をごまかして、ダム計画を進めることは絶対に認められない。 (4)「ダム計画を認めてもらえば、ダムによる影響を検討する」との県の論理は、流域委員会設置の意味と目的の否定だけでなく、つい最近知事が言明したことすら自ら否定することである もともと武庫川流域委員会は、環境アセスメントで、環境破壊について県がまともな説明ができずに、検討やりなおしとして設置されたものである。環境問題、渓谷への影響についてまともな検討もせず、説明もせずにダムを作る計画を決めようとすることは、流域委員会設置の意味、新河川法の意義を自ら投げ捨てるものであり、いわば旧河川法の時代、6年前に戻すだけである。 知事自身、32回流域委員会で「組織を挙げて対応する」「気兼ねなく命じてもらえたら幾らでも作業させていただく」と答弁したことは、いったいなんだったのか。知事の回答をも否定する県の姿勢ではないか。いまや、一般的にも構想段階でのアセスメントすら常識になりつつあるときに、流域委員会で環境の検討もまともにせずに、ダムありきをおりこんだ計画を決めることは、委員会設置の意味をまったく成さない。全国注目の武庫川流域委員会が、知事の指図で、環境問題もまともに検討もせず、ダムを織り込んだ計画を決めたとなれば、それは恥ずかしいことで、そんなことは、流域委員会が選択するとは考えないが、そんな恥ずべき方向を強要する県のやり方は絶対に認められない。 (5)下流の流下能力算定の疑問- 甲武橋地点で、平成16年の洪水実績では、OP15.76メートルの実測水位に対して2900立方メートル/s流れたとしているが、その地点の流下能力は、評価水位OP17.59メートルに対して2754立方メートル/sしかないと県は計算している。流下能力算定の水位よりも、2メートルも低い水位でも、2900立方メートル/sトン流れたのだから、2メートル高い水位なら川幅300メートルもあることを考慮すれば、もっと高い流下能力となるはずではないか。
平成16年実績洪水水位(OP17.59メートル=2754立方メートル/s) 流下能力計算(OP15.76メートル=2900立方メートル/s)
- また、小曾根水位計でも、高水敷き程度までの水位であったことが実測されているが、県の資料では、河床からの高さしか示していないので、推定するとOP7.4メートル程度でないか考えられる。この水位で2900立方メートル/s以上流れたことになるが、流下能力の計算では、評価水位9.40メートルに対して3475立方メートル/sの流下能力としている。川幅200メートル以上で水位が2メートルも上がっても600立方メートル/sの流下能力しか増えないというのは理解しがたい。(意見書提出後、小曾根水位計での洪水水位がOP7.27メートルと判明。県の計算はHWL水位8.598mに対して2721立方メートル/sの流下能力としている。HWL水位よりも1メートル以上低い水位でも実際は2900立方メートル/sも流れていることになる。)
- 阪神電車橋梁付近では、流下能力は、評価水位5.76メートルに対して2700立方メートル/s程度しかないとしている。この箇所だけ、異常なことに、いまだに、23号台風の時の水位記録が公表されていない。現地には水位の自記記録計が設置されているのに、事務所には水位記録そのものがないという。しかも、これまで、洪水痕跡調査結果も公表されていない。
県の災害査定資料では、OP5.2メートルまで水位がきたと想定しているようだが、いずれにしても不可解な状態である。平成16年実績洪水(OP5.76m=2700立方メートル/s) 流下能力計算(OP5.2mと県が想定=2900立方メートル/s)
@ABの結果からいえるのは、県の流下能力算定を大幅に超える実績流量があるということ、逆に県の流下能力算定は、実際よりも大幅に低く算定しているということがいえる。阪神電車付近では、3000立方メートル/sを大きく超える流下能力がすでにあるのではないか。阪神電車の下流に設置している水位計の記録と洪水痕跡調査結果をすべて公表し、流下能力の算定を根本的にやり直すべきである。 ・甲部橋(80+47) 実績: 平成16年最高水位 OP15.76m 洪水流量 2900立方メートル/s
流下能力計算表 | 左岸 | 右岸 | 評価水位(現況堤防-余裕高) | OP17.59m | OP18.00メートル | 流下能力 | 2754立方メートル/s | 3260立方メートル/s |
・小曾根水位計設置地点(39付近) 実績:H16.最高水位OP7.4m(※意見書提出後、県は、水位7.27mであったことを明らかにした。) 洪水流量2900立方メートル/s
流下能力計算表 | 左岸 | 右岸 | 評価水位(現況堤防-余裕高) | OP9.40m | OP9.16m | 流下能力 | 3475立方メートル/s | 3260立方メートル/s |
・阪神電車橋梁付近(26+39付近) 実績:平成16年最高水位 不明。自記記録計が設置されているが、当時のデータはないという。洪水痕跡調査結果も公表されていない。(※意見書提出後、洪水痕跡調査結果を明らかにした。そこでは阪神電車橋梁付近で、OP4.8〜5.1m程度となっている。) 洪水流量2900立方メートル/s
流下能力計算表 | 左岸 | 右岸 | 評価水位(現況堤防-余裕高) | OP5.76m | OP5.76m | 流下能力 | 2714立方メートル/s | 2714立方メートル/s |
(6)三田市内の武庫川が、30年確率の流下能力があるから、30年確率の流量が下流に流れるとの県の論理について 三田市内の市街地部全域では、雨水幹線による雨水排水処理が実施され、武庫川に放流するようにしているが、雨水排水処理は6年確率程度である。また、雨水幹線はほとんど管渠であり、オープンカットの雨水幹線は少ない。三田市街地部の武庫川は盛土堤防であり、雨水は、多くの場合雨水幹線を通じて流入し、支川を通じて流入する場合も雨水幹線で集水している場合がほとんどである。そのため、(市の下水担当者に確認すると、)30年確率の雨が降れば、管渠を流れきれず、枝管で溢れるなど、地表面で滞留することになるだろうとのことである。 また、一部にある開渠の雨水幹線についても、平成16年の台風23号の大雨では、武庫川の水位の方が高く、集めた雨水が武庫川に流入できず、開渠の箇所で溢れ地域一帯が浸水したとのことである。以上から、30年確率の雨の場合、三田市街地部は、降った雨がそのまますべて、武庫川に流れ込むことにはならない。 このような状況は、伊丹の天王寺川流域、宝塚の大掘川流域なども考えられる。 市街化区域以外では、どうか。平成16年の23号台風の時は、すでに稲の刈り取りも終わり、水田部が冠水しても農作物被害がないために、市としても調査も把握もしていないとのことであるが、実際に農業をしている方にお聞きすると、水田は相当冠水、湛水したと考えられるとのことであった。 「稲の刈り取りのあと、田んぼに稲わらを一面にまくが、23号水害のあとは、わらが武庫川の堤防に張り付く形でずらっと一筋に集まっていた。田んぼ一面に巻いたわらが、いったん浮き上がらなければ、こんなことはおきない訳で、相当、湛水したと考えられる。それは、三田市南部でも、三田市北部の篠山市に近いところでも同様の状況が起きた跡を見た。各農家は、堤防に張り付いたわらをそのままにしておけないので、わらを広げ、もう一度まくという作業をみんなした。今からでも、流域の農家に聞けば当時の情況がわかるだろう。」ということだった。 平成16年の水害ですら、こういう状況が起きたわけで、30年確率という大雨が降れば、当然水田などが大きく冠水、湛水すると考えるのは当然である。わずかな「結果としての湛水」しか見込まずに、降った雨がそのまま流入するというのは、武庫川流域の実態を踏まえていない。 市街地部でも、農業地帯でも、指摘したような状況が平成16年の大雨時におきており、こういう実情をなんら実証的調査もせずに、30年確率の流下能力があるから、それだけの流量が下流に流れるなどという実態を無視した無責任な論理で、ダムを主張するのは、無責任極まりない態度である。
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